純愛小説、村山由佳の「天使の卵」に感銘を受け「永遠」第二章 | 純愛小説「永遠」ー村山由佳の「天使の卵」に感銘を受け

純愛小説、村山由佳の「天使の卵」に感銘を受け「永遠」第二章

作者より、第一章を読んでない方、興味がある方是非見て下さい。http://ameblo.jp/blog-nariyira/entry-10000312672.html


第二章

ついに行く道とかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを。
                                            在原業平

日曜日は、何とも言いがたい程嬉しい。休みが続いていた時は毎日、気が抜けていたが、学校が始まってようやくほっとできる時間が持てた。しかし、ほっとして気が緩む所へ、寂しさがじわじわと波のように押し寄せてくる。その波は、次第に大きくなり、独りの男をのみ込もうとした。
思わず耐え切れなくなり、気分転換をしに外へ出掛けることにした。ある知人が言っていた。こういう時はおいしい物を食べて良く寝ることがいいのだと。僕はそれには賛成で、これから少し遅いお昼を買いに行くため弁当屋へと足を運んだ。

お昼を過ぎた店内は客が、ほとんどいなく暇そうに見えた。今日は如何にも熟練している様な年配の人が店番をしていた。あの一生懸命頑張っていた女の店員はいなかった。もう辞めてしまったのだろうか? また頑張ってる姿が見たかった。

弁当を買ってからいつもなら、真っ直ぐに帰るが、今日は天気もいいし家のにいるのも苦痛だから、どこか食べることができる場所でも探そうと思った。弁当屋の後ろにある緩やかな坂道を自転車を押して、進んでいった。この先の丘の上なら、気も晴れるだろう。

登り切ると、見晴らしの良い小さな公園があった。ベンチが二つとブランコ、そして一本の大きな木があるだけで、他には何もなかった。ひとけがない程に静かだ。だがベンチに一人だけ座っている。
その人は遠くの街並みを、ぼんやりと眺めていた。些かさびしそうに見えたのは、気のせいだろうか?
もう一つのベンチに座ろうと、近くに寄ってみると、驚いて立ちすくんでしまった。向こうの人も、僕の弁当の袋を見てびっくりしている様子だった。
「あのー。もしかしてあの弁当屋で働いてる人ですよね? 」
もしかしてなんてことはなかった。あの薄汚れてる制服を着ているのだから間違いない。あのひた向きに働く彼女だった。今は、休憩時間なのだろうか?
「え、そうですけど」
「今ちょうど買って来た所ですよ、一度、買いに行った時会ったことがあるんですけど覚えてませんかよね?」
「… 注文なかなか、決まらなかった人? たしか、唐揚げ弁当買った」
彼女は笑みを浮かべ言った。
「あの時、何買って良いか決まらなかったけど、あなたがずっと待ってくれたから嬉しかったんですよ」
さらに、いつもあの様な店に行くと、迷ってしまい、店員に嫌な顔をされるが、あの時は違っていたと一生懸命に言った。
すると彼女は控えめな声で言った。
「そんなことないですよ、こちらこそありがと」
あの店で働いている様子と、何ら変わらないことに安心した。でもさっきも見た、ただ独りでじっと何かを見つめていたことが気になった。思い切って、何かあったんですかと言いたかったが、まだそんなことを訊ける間柄ではなかった。

「今日初めてここに来たんですけど、落ち着きますね?」
「そうね、私はよくここに休憩に来るのよ」
「何だか嫌なことを忘れられそう気がする。」
少し彼女は黙ってから、
「お話できて楽しかったわ、もうお店に戻らないと、」
と言うと急いで帰ろうとする。
「また来ても良いですか? ここは気分が良くなる」
「いいわよ、私もそうだから、でも…」
何か言いたかったことが有ったのだろうか?それともこれ以上親しくなりたくないと言うサインなのだろうか?

大学生活は楽しい。学校に行って自分の好きなことを学び、そして友人とたわいもない会話をし続ける。最近になって、車の免許を取るため教習所に通い、バイトもするようになった。忙しく週末にはクタクタにってしまう。だからまた日曜日になると自然とくつろげるあの公園に、行きたくなる。
今日は雲が秋の空を覆っていた。この街をゆっくり眺めている女性がこの前と同じようにベンチに座っていた。

「こんにちは、また来ました」
やな顔こそしないが元気のない返事が返ってきた。
「こんにちは…」
仕事でもこんな風にしているのだろうか? いやそんなことはない。弁当屋にいる時はきっとこんな表情をしない。この落ち着く公園だからこそ、素顔を見せてしまうのだろう。僕も随分この光景を見ていると自分が、素直になる気がした。

僕はどうしても、元気を出して欲しかった。そこで、僕自身のことを話せば少しは元気を取り戻しはしないかと、僕なりに考えた。今まで夏に起きたことを、一生懸命に話した。それはむしろ自分に、元気を出すんだぞと語りかけていたのかもしれない。この公園にいると、思わず気分が開放されて自然と話したくなる。
「そうなの… 辛いのね」
と少し彼女は、僕の話しにびっくりした様子で言った。そして「私もそうよ」という感じで微笑んだ。彼女も過去に同じような経験をしていたのだろうか? 考えてしまった。
それからしばらく、沈黙が続いた。二人は日が照らない街を見ていた。
幾分か時間が過ぎてから彼女は言った。
「貴重な話しをしてくれてありがとう」
「いや、とんでもない、つまらい話しですけど、こんなことならいくらでもしますよ」
彼女の顔色が少し良くなっている気がした。
「じゃまた来週にね」
僕は嬉さで一杯だ。また会える約束をできたこと。そして自分が、少しでも人の役に立てたことが有り難かった。彼女は緩やかな坂を、弁当屋の方に向かって下って行った。

一週間がまた過ぎ、日曜日がまたやって来た。でも今日はあいにくに、朝から雨が降っている。彼女はどうしているのだろうか? と気にはしがらもとても外に出掛けられる雨でなかった。今日は家に居ることにした。
夜になり、小降りにはなったが、依然と降っていた。完全に止んだのは、夜の十時を過ぎてからだった。一日中家に居たから、外に出掛けたくなった。あの公園の夜景を見にいこうと、彼女が居なくても綺麗な夜景が見られればいい。

着いてみると、目の前に光が飛び込んできた。街全体の中で民家やマンション、高層ビルから道路の車まで、一つ一つ光を放っている。それでいて公園はひっそりと静かだ。こんな時間には、誰も居ないはずだ。


だが、なんと彼女が、じっと耐えるように座っていた。近寄り難い気持ちもあったが、僕は意を決して、彼女の前に立った。すると、意外なことにもそれほど驚く表情を見せず僕の方をじっと見つめてきた。僕は声を発した。
「どうしたんですか? こんな時間に」
「……」
彼女は何も言わずに黙って見つめてる。今まで見たことのないほど悲しい表情をして。
「何かあったんですか?」
それでも 彼女は何も言葉を発しなかった。警戒しているのだろうか? それとも他に理由があるのだろうか? 僕は心配だ。そして何とか力にばれればいいと思った。

依然と彼女は黙っていた。思わず僕は言った。
「心配ですよ。放っては置けません。僕で良かった話してください」
ようやく彼女は、声を発した。しかし、静かな泣き声だった。そして、彼女の瞳からは、次々と涙が零れ落ちてきた。ただ僕には、彼女の泣き止むのを待っていることしか、できなかった。
それから彼女は安心したかのようにずっと、泣いていた。辺りは真っ暗で、公園の街灯と夜景の光だけが二人を照らしていた。やがてまた空から霧雨が降りだした。彼女は泣き止むと、静かに話し始めた。降ってくる雨を気にもせずに。
「あんなに幸せだったのに… 信じられな い 」
何の事だかわからないが、雪のように舞い下りてくる雨を浴び、ひたすら聞いていた。
「もう少しで一年が経つの」
「… えっ?」
「… 一年前、結婚を予定した日から」
僕はこれ以上のことが、言えなかった。
「あなたと同じなの… 私も」

また彼女は、瞳から涙を流していた、降ってくる雨と頬で交差しながら。
「二人は、愛し合っていたのに、」
ここまできたなら、全てを聞こうと僕は決心していた。
「何があったんですか?」
「あの人に突然言われたの。『君とはもう無理だよ』って。初めは冗談かと思ったわ、でも彼の口調は本気だったの。私は言われるまで全く気づかなかった。彼とならきっと幸せになれると信じていたのよ。馬鹿よね。」
と彼女はじっと、一点を見つめたまま言った。
「どうして、ですか」
「それからだいぶ、後だった。彼には本当の婚約者がいるのを知ったのは」
僕はそいつに怒りを感じ、黙ってはいられなかった。
「なんてひどい話しなんだ。信じられない!」
さらに冷え切った声で、彼女は言った。
「私が馬鹿だったのよ。あの人のことを、何もわかってあげられなかった」
それには、なんとも答えられなかった。

それからも彼女は、今まで我慢していたものを、一気に吐き出す様にして話し続けた。彼女は仙台生まれで、大学進学と共に東京へ上京し、国立大学を卒業しその後、都内の一流商社に就職した。そしてそこで知り合ったのだと言う。彼と別れてからは、自分をやり直すために、苦労して入った会社を辞め、今の弁当屋に入ったのだと言う。登りつめた地位を捨て、暮らすのに最低限になっても。
話し終えると彼女は、今にもベンチから地面に滑り落ちそうに、体をかがめていた。僕はその濡れた身体を


ゆっくり起こして上げると、彼女は我に返った。雨がこんなに降っていること、そして僕に頼ってることを。彼女は、そんな自分に戸惑い、困惑している。
「ごめんなさい。あなたまでこんなになるまで話しちゃって。風邪を引いちゃうわ。」
「いや、僕が勝手に付き合ったんで。でも良かった一人じゃなくて」
と僕は言った。
「ありがと、あなたは優しいのね。」
「大丈夫ですか? まだ心配です、できればあなたに付いていたい」
と僕は正直に今の気持ちを言った。
雨が次第に強くなり今まで苦痛でなかったがほっとした途端、寒く感じてきた。十月下旬の雨は思った以上に堪える。

彼女はさらに困惑しながらも、言葉を発した。
「私はあなたより随分と歳が上なのよ…」
「そんなこと関係ないですよ、ただ心配なんです」
「でも…」
僕には分かっていた。ただこの状況にたまたま出くわしたのだ。そしてそばにいて、話しを聞いてあげられる人が、誰でも良かったことに。だが今日、僕が選ばれそして彼女が助けを求めているのは、紛れもなく事実なのだ。後のことなど考えもしなかった、いまこの人を守ってあげたい。それだけだ。
すると彼女は立ち上がり、こわばった顔で言った。
「… お願い」

そして二人は緩やかな坂を、彼女の家に向かい下って行った。
公園から徒歩で十分ほどの所に、彼女の住まいがある。決して奇麗だとは言えないアパートであった。二人はおもむろに緊張した様子だ。彼女はこのアパートの男の人を上げたことがないだろうし、僕は、午前零時近くになってこんな状況で人の家に入ることなど、考えもしていなかったから。
中に入ると外観にふさわしいほどの、小さな部屋が二つあった。

「風邪を引くといけないから、先にシャワー浴びて」
「でも、後でいいですよ。」
「着替えなんとか用意しておくから、先に入って」
しかたなく、バスルームの方に向かっていく。シャワーを浴びながら自分がどのようにして、ここにいたったのか考えてみた。そして彼女のあまりに悲しげな表情を思い出し、心が締めつけられた。すると頭を埋め尽くしかねない、別の欲望を消させた。
出てみると、カーディガンと一度もはかれてない様なズボンがる。そしてそばのコンビニの袋の中に下着が入っていた。わざわざ近くのコンビニまで買いに行ってくれたらしい。着替え終わって出ると、すでに着替えて彼女が待っていた。
「ごめんなさい、それぐらいしかあなたに合う服がなくて」
「いやわざわざ、買いに行ってくれてありがとう」
「そこのソファーに座っていて。」
と言うと、彼女も浴びに行った。

僕は部屋の中をぐるりと見回した。彼女が言っていたように、必要以外の物は置いていなかった。ベットにテレビそして横に本が数冊、窓の近くには小さな可愛らしい植物が鉢に植えられている。
やがて彼女が出てくると、キッチンの方に行き、ホットミルクを二つ作って隣に座った。
二人は緊張し、ミルクを啜った。
「おいしいですね。体が芯から暖まる」
すると彼女は真剣な顔付きになって言った。
「本当に今日はありがとう。お礼を言わせて。あなたのおかげで助かったわ。」
「よかった、お役に立てて。本当に心配したんですよ。でもどうして、僕にあれほどの表情を見せたの?」
彼女の険しくなる顔を見て、余計なことを言ってしまったと後悔した。彼女は何て言おうか迷っているようだ。僕が謝ろうとする前に彼女が言った。

「こんなこと言っていいのかしら、いや言わせて。あなたがこの前お話してくれたでしょ。私とても嬉しかったのよ。自分の辛いことを正直に話してくれるなんて。あなたなら安心できるなと思ったの」
「あの時は無我夢中で励まそうと思って。」
僕は正直びっくりした、でも嬉しかった。彼女はとても人の痛さがわかる優しい人だ。僕も彼女なら何でも話せる気がした。
今度は逆に彼女が僕に質問してきた。

「どうして私にあんなにも親切にしてくれるの? 」
「何だかあなたを見ていると、放っておけなくて、それに…」
彼女はくすっと笑って言った。
「もう年下のくせに、生意気なんだから」
彼女の表情から明るさが戻ってきた。弁当屋で働いてるあの表情だった。
「それに、一生懸命働いてる姿が好なんです、何と言ったらいいいのだろう、僕にとって必要です。あなたと居ると僕も安心できるし、素直になれる。」
これが僕にできる精一杯の彼女への愛情表現だった。
「ありがとう私もそうよ。でも…」
「でも、なに?」
「私はあなたに比べれば、随分とおばさんなのよ。あなたの様に、若さは溢れていないの。」
彼女はため息をついた。そして僕も。
「そんなこと問題になるの? 少なくとも僕は気にしないよ!」
「あなたには、もっと…」
彼女が僕のことを心配してくれるのは嬉しかったが、歳の差だけで一緒になれないなんて悔しい。
それから沈黙が続いた。二人は疲れきっていた。深夜だから、時折車の音が聞こえるだけで後は何も聞こえなかった。
少ししてから、黙ってる僕の手を優しく握ってきた。僕は驚いたがしっかりと握り返した。二人はただ何も言わずに、寄り添い合った。お互いに傷を癒すかのように。そして手をつないだまま目を閉じた。

気が付いた時は、もう朝になっていた。隣には彼女の姿はなく、代わりに掛け布団が僕を包んでいた。前のテーブルの上にメモと輝く物があった。

メモには
「おはよう、私は仕事に行かないといけないからから、起こさずに行きます。朝ご飯作っていたから良かったら食べてね。昨日は本当にありがと、頑張るわ。また必ず来てね、それまでキーを預けときます。」
                                                         加奈子より

そう言えば名前を知らなかったんだ。加奈子かいい名前だ、一人感心していた。僕は彼女の作ってくれた朝食を食べ、メモに書き、大学へ行くため戻った。

「朝ご飯とても美味しかったよ。元気を出してください。応援してるよ! また来ます」
                                                        誠より

今週は、文化祭シーズンなので大学は活気に満ち溢れていた。僕も友人のサークルの手伝いをした。だが彼女のことが心配で、会いたい気持ちで一杯でいると、ついに友人に怒られてしまった。
土曜日の夜になり、ようやく学祭の片付けや飲みも落ち着いて、時間が空いた。
彼女のアパートに着くと明かりは付いていなかった。それでも迷ったがインターホンを鳴らしてから、預った鍵でドアを開けた。部屋の中は真っ暗だった。電灯のスイッチを探して明かりを点けると、ソファーの上にうずくまってる彼女がいた。

「電気も付けないで、どうしたの?」
彼女は仏を見るかのように、安堵した顔で見上げた。
「来てくれたんだ… ありがと」
僕も彼女の顔を見て安心した。
「…考えていたの、あなたのことずっとこの前はあんなこと言っちゃってごめんなさい」
僕も気持ちを彼女にぶつけた。
「僕もほんの一週間しか経っていないのに、辛かった、離れたくないよ」
まるで子供のような声で彼女は言った。
「あなたを、信じていい?」
「うん」
二人とも、ずっと孤独だった。過去がそうしたのだろうか? いや今この生きてる時、瞬間に感じる必然だった。二人は必要になっていた。神・仏が運んでくれた最高の導きに、やっと二人は出会った。
もう二人を隔てる心は完全に、なくなっていた。

「よかった。あなたがこの前、歳なんて関係ないって言ってくれて、本当に嬉しかったの。でもあなたのこれからのことを考えると、足手まといに成らないかと心配したの」
「分かってるよ。自分で選んだ道に後悔はしない。」と僕ははっきり言った。
僕は彼女の横に座ると、優しく抱きしめた。彼女の手は僕の背中をきつく抱きしめた。もはや二人には、一つになる事に何の躊躇いもなかった。
言葉でなく、お互いに愛を告げあった。

それから彼女のささやく声で気が付いた。
「もうこんな時間になっちゃったね、帰った方がいいわ、おうちの人が心配する」
二人で居る時間はあっという間に過ぎた。でもこれからはいつだって会うことができる。それに決して会えないとしても、気持ちがつながっているからそれほど、寂しくはないはずだ。
「そうだね、そろそろ帰らないと。もう平気だよね加奈子。」
恥ずかしくもなりながら、名前で呼んでみた。
「うん大丈夫、誠」
彼女も顔を赤くしながら言った。それからキスを交わした後、服を着て帰る支度をした。
「鍵は持ってて。いつでも来れるようにね」
「ありがとう。これからは、いつでも一緒だ」
僕らはお互いの手をぴったり握ってから、別れた。

それからも僕らは、彼女の家やあの公園で安らぎ合った。そしてよく話をした。大学での出来事や僕の将来や就職のことを相談すると、彼女は実によく一緒に考え悩んでくれた。いつも決まってこう言う。
「自分の一番やりたい事を選んでね」
僕はというと、彼女の弁当屋の話しを良く聞いていた。ベテランのおばさんに味が今一つ駄目だと言われたり、常連の客に褒められたりいろいろとあるものだ。
でも彼女の料理は最高に美味しかった。クリスマスに彼女の家で食べたごちそうは、忘れられない。あのコクのあるシチュー、茹で加減の絶妙なパスタ、デザートのホワイトケーキどれをとっても絶品だった。さすが弁当屋に行ってることはあるなと感心した。彼女は僕が褒めるとリンゴのように、顔を真っ赤にし、照れていた。
僕らにこれ以上のない、幸せな日々が続いた。そしてお互いに、この丸いちいさな星の中で最も必要なんだと知っていた。もはや誰にも、僕らの愛と絆は壊されないと確信していた。

年が明け寒さが厳しくなっても、二人の間には変わりはなかった。あえて挙げるならば、彼女は依然に比べると、すごく元気になったこと、そして若々しく綺麗になったことだ。二人の力が、そうさせたんだと思う。
さらに寒い冬を乗り切ると、新たな生命が満ち溢れる春が訪れた。今まで、ぐっすりと眠っていた動物や植物が一気に目を覚ます。そしてまた日差しがきつい、夏がやってくる。今年の夏には二人でいい思い出ができそうだ。僕らは外に出掛けるのが好きだったので、これからが楽しみだった。

「もうすぐ夏ね、いろいろな所に出掛けて、そして思い出もいっぱい作りましょう」
「いいよ免許もあるし」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして思いついたように言った。
「明日は、誠、空いているんだよね。海と綺麗な星が見たいわ、どう?」
「よし、行こうか。車借りてくるよ」

僕は久々に、武の家に行き今までの経緯を話し、車を借りた。武は気分良く貸してくれ、そして僕らのことを人一倍喜んだ。

彼女を駅前の大通りで待っていると、一羽の鳥が突然、キョキョキョと、僕に向かって鳴いていた。ホトトギスが夏を告げているのだろうか。そして、 辺りは夕日で真っ赤に染まり、これからおとずれる暗闇を暗示していた。
僕らは一路、伊豆の方へと車を快適にとばしていた。だが、この車はラジオが壊れて聴くことができなかった。車は、外に何が起きているか半段させることもなく、周りの様子が見えなくなる程に、猛スピードで国道を飛ばしていた。

気が付くと伊豆までは、まだ少し距離があった。だが国道を外れ脇の道を入って行くと、ひとけのない静かな海が見えてきた。お互いにこの辺でいいと納得し、車を降りた。あたりは閑散としている。街灯が壊れているのか、ついてなかった。波がまじかに来る所で僕らは座った。海水はまだ冷たそうだった。ここは、小さな入り江となっている、奇麗な砂浜であった。もしかしたら、地元の人だけが知る穴場のような気がした。

二人とも得した気分になり、それから語りあった。
「とても綺麗な海だわ、星もあんなに輝いてる」
と彼女が僕を見つめながらがら言う。
「ほんとに奇麗だ」
僕は海や星の美しさに、彼女も負けないと感じた。
「良かった…あなたと一緒に居ると、とても安心できる」
「僕も、そうだよ」
「ありがとう、誠、これからも宜しくね」
彼女は寄り添って、改まって言った。
「もちろん、どんな時も一緒だよ」
それから、二人は将来を誓い合った。
こんな夜なのに、満ちた月に照らされながら水平線に向かって真っすぐ飛ぶ海鳥の姿が、かすかに見えた。僕らはじっと目の前の幻想を見ていた。

いままで足元まで来ていた波がなくなってた。いや、引いていった。静けさの中に着信音が響き渡った。
「やっと、つながった。マコッちゃん今大丈夫?」
「どうしたの?」
「凄い揺れだったけど」
武からだったが、何のことだかわからない。
「地震だよ二十分前に。海行くとか言ってたから心配で」

すぐに電話を切ると…スローモーションになった。車をとばしていて気づかなかったこと、ラジオが壊れてたこと、時間がかなり経ったこと… 辺りを見回した。ひどく静まりかえっているが、しだいに大きくなっていく波の音が聴こえる。次の瞬間に、
「…」
ゴゴォーッ 、ゴゴォーッ、と物凄いけたたましい音に変わった。白色の波が二人を襲い始めた。彼女は冷静で、今起きた事実を直ぐに把握したようだ。
「誠…」
一瞬、僕らは見詰め合い、瞳で会話をした。
「あなたを、愛してるの」
「僕もそうだよ。愛してる、君を」
どんな時でも、僕らは愛し合っている。二人とも幸せだ、そしてこれからも永遠に… 幸せだ。

僕は押し寄せてくる波のなか、全生命力を使って彼女を抱き寄せた。もう駄目だと分かっているが、この世界に、一秒でも一緒にいたかった。
二人は一つになると何も恐れることなく、すべてを受け入れた。生命の源に帰ることに。

かすかに深い闇に落ちて行く声が聞こえる。
「ずっと一緒だね」

「そうだよ、ずっと」

(作者より皆様へ)ここまで長い時間をかけて読んで下さりありがとうございます。この作品は僕が大学二年の時に書いた初作品です。まだ文章・表現力が余り無いとおもいますが、読んでいて一番楽しめる作品だと思います。感想を是非聞かせて下さい!
Makoto19792004@aol.comよろしくお願いします。

またこの作品を少し手直しし、「第22回新風舎出版賞」に出し2000編を超える応募の中、二時審査通過しました。審査コメントがりますのでよろしければメールにてお送りします。