純愛小説、村山由佳の「天使の卵」に感銘を受け小説「永遠」
作者より
「見て頂きありがとうございます!毎日10人前後の訪問者がいます。しかし、感想のメールは来ません。同じような志を目指している人などアドバイスや意見交換をしませんか?
僕はこの作品が初作品であり、今まで5編書いて三つ賞を取っています。どうか全文を読まなくても構いませんのでメールを下さると大変嬉しいのです。アドレスは一番最後に載っているので。恐縮ですがお返事よろしくお願いします。」
追伸、何名かメールで感想をくれています。しかし、数が少ないのが現状です。どうか感想や情報交換しませんか?
遅れましたが、八月に最後まで僕の小説を読み感想を送ってくれた人がいました。しかも絶賛してくれたのです。
「永遠」
第一章
最も優れた人々は、苦悩を突き抜けて歓喜を獲得する。
ベートーベン
今日は何食べようか?
夏休みに入り毎日家で昼食を取ってから,わざわざ外まで買いに行くことが、僕の楽しみになった。大学がある時はたいてい友人と、学食や外に食べに出かけていたので、今は妙にさびしい気がする。それで、週に何回か母に昼ご飯を作ってもらわず、近くの弁当屋に買いに行くことにしている。それで、少しでも自分なりに楽しませるようにしている。
弁当屋へに向かうため、夏の厳しい日差しを浴び自転車に乗っている。
「いらっしゃいませ」
店には、他に客はいなく随分静かだった。
その控えめな声は、小さな店の中に響き渡った。
一人の女の店員がカウンターの方に近づいて来る。そのたたずまいは、二十代後半から三十代前半のようで、外見はくすみ、エプロンも何日も仕事しごとしている様に、所々にシミがはいっててた。頬には、汗の滴がしたたれている。決して、綺麗な女性とは言えなかった。だが、何か一生懸命にこの仕事を頑張っているんだと言うような雰囲気が見受けられた。僕には、この姿がとても、新鮮に思えた。
「ご注文は何いたしますか?」
そっと 柔らかな声で聞いてくる。
「うーんと、何にしようかな」
何を頼んで言いか迷ってしまった。だいぶ時間が経っても、言葉を発さず、その女の店員は落ち着いた感じで僕を見つめ、ずっと待ってくれている。
「…唐揚げ弁当一つ」
ようやくの思いで決めると、店員はわずかながら微笑んだ。
「はい、わかりました。少々待ってて下さいね、すぐにお持ちしますから」
と言うと、すぐにキッチンの方へ消えていってしまった。
一人取り残されて、ある思いが涌いてくる。
別に客から見れば、ただのなんともない店員なんだろう。しかし僕は違っていた。わからないが、あの様子に引かれる。弁当屋でありながら、あのひた向きに働く姿、それにじっと人を待つ姿勢が嬉しい。
誰もが目を見張るような美しさはなかった、スタイルも、ごく普通だ。しかし、僕はその表面的なものではなく、その内奥にある、別の何かを垣間見た気がしたのだった。
今日も夏の熱い日差しが、続いていた。僕は、都内の、世間的には有名で誰もが憧れている大学に通う二年生だ。あの大学に通うことができるのは、高校時代の猛勉強と、両親の支援があったからだろうと思う。そのおかげで、自分が一番行きたかった所に行くことができるのは、何よりも嬉しい。
しかし大学生活を二年も続けていると、その純真な気持ちというのも、薄れていくものだ。最近では、何も考えることがなく、ただ何となく毎日を過ごすことが多くなってきた。高校時代のように、ガムシャラに自分の夢を追い、後のことなど考えられない程、熱中することはなくなっていた。
そんなことを独り、ぼんやりと考えふけっていた。いかにも僕は暇なのだ。暇になると普段考えもしないことを考えるてしまう癖が以前からあるのだ。
こんな時に はっとする音がした。
「ピピィ、ピピィ、ピピィ、、」
「はい?」
大学の友人、武だった。実に良いタイミングで掛かってくるものだ。こんな暇な時にくる電話は非常に嬉しい。武に感謝さえしたくなる。
「明日合コンいこうぜ!」
何を言い出すかと思えば、この前から言っていた、N女大との合コンのことだった。
「やっと決まったのか?いくよ!」と言うと
「遅くなっちゃったけど、ようやく決まったよ。お嬢だぜ、いいだろ?」と得意げに言う。武は、いつもこんな調子で、気さくでいい奴だ。それでいて温厚な人柄でもあった。だから大学では、彼が歩くと、どこか知らずとも、次々に声が掛けられる人気者だった。僕にとっても、尊敬できる大切な友人である。
そんな彼の誘いでもあったから断ることはない。それがいつもの、僕らの行事みたいなもので、今まで何回となく合コンに行っていた。
新宿駅西口で僕らは、合コンの相手を待っていた。午後七時だというのに、辺りは依然として明るい。それに会社帰りのサラリーマンやら買い物帰りの人が行き交い会って、まるで人々がサバンナのヌーの群れの様だった。そのヌーの群れの中からお淑やかであろう女性達を探している。
しかし待ち合わせ時間になってもいっこうに現れる気配がない。みな焦りと苛立ちを出していた。
「初対面の人と会う時に普通遅れるか?」と充が少し怒りながら言う。
「しょうがねーよ。どうせ対したこと、ないんだよ」と今度は、憲二が投遣りに言う。
今日は自分を含めて四人来ている。この合コンを実現させてくれた武と更に充と憲二だ。この四人は大学ではいつも、共に行動し遊ぶ中の良い友人だ。
僕も遅れてくる上に連絡もしてこない奴など、いくらお嬢様学校の連中でも許せない。大学生でも、一般的なモラルは持つのは当然のことだと思う。少なくとも自分はそう意識し行動したい。だからいっそうこのまま待たずに帰ろうかと本気で思っていた。
すると 、一人の薄い眼鏡を掛けたまじめそうな女性が
「ごめんなさい、遅れました。本当にごめんなさい」と頭を下げて謝ってきた。僕らは、ビックリした。急に謝られたことではなく、その姿に。みんな同時に、「エッ、こんなのと合コンするのか」と思ったにちがいない。引きつる顔が、ものがたっていた。
それをみると次に僕は、異形の光景を見た。美しい・・・。オレンジのニットを着、夏らしい鮮やかなオフホワイトのタイトスカートをはいているすらっとした女性が、例のまじめそうな女性のすぐ後ろに立っていたのだ。すぐにその女性が同じく合コンするメンバーだと分かった。胸が高鳴り狼狽する。心臓があまりの鼓動で激しく揺れるので吐きそうになる程だ。
「今日は良かった本当に、来た甲斐があった」さっきまで思っていたことは、とうに忘れてしまった。男とはみな、こんなものだろう。目の前にビーナスが現れると、これまでのことなど反故になる。その奇麗な女性の姿の虜となるのだ。一人でそんなことを思っていた。
やがて、皆も気づき圧倒されていた。その他の二人の女性もこちら側に挨拶をしに来た。特に普通の女性の感じがする。僕はそれよりも何もあの一団と綺麗な女性が気になってしょうがなかった。体が勝手にその女性の方を向き視線を微妙に外しながらも、見てしまった。
西口界隈から数分の所にある、わりと高いビルの中の居酒屋で飲むことに決めた。店内は飲む客やそれを運ぶ店員でがやがやと騒然としている。僕らも、ひとたびこの空間に足を入れると、気分が舞い上がってくる。十人掛けの座敷に案内されると僕と武はすぐに座らず、合コンに来た連中に、さり気なく席を譲った。憲二が一番奥に座り次いで充、そして武に、ついで僕が座った。向かいの奥にはあの眼鏡の彼女が座っている。僕と武は思いどうりに座ることができ、お互に笑みをもらした。
合コンでは、どこに座るかが、その後を左右してくる。だから、相手方が見えた時から、或る程度、目星を付けた方が良い。そこで話したい相手と十分に会話をできなければ、意味がない。そんなことを合コンに慣れていない憲二と充は思いついていない様だった。僕と武はよく合コンに一緒に行くので互いに、何をすればいいか良く分かっている。合コンに行くには、いいパトナーなのだ。
ここに集まった全員で乾杯をして後、 すぐに、目の前の女性が「名前は何と言うの? 私はえり 。」と話し掛けてきた。こっちから話すことなく、向こうから話し掛けてきたので好都合だった。もちろん武も途中から、僕らの話に加わり冗談を言い楽しんでいた。それからも話は盛り上がった。お互いに特定の恋人がいないことや、夏休みだというのに退屈などなど…
それから僕と武は憲二と充を残していつものように立ち上がりミーティングをするべくトイレへと直行した。
「マコッちゃん誰が気になった? 前に座ってる子いいんじゃない?」と武が楽しそうにいう。
「そうだな? いいと思うよ。」と僕は軽く言った。僕は、えりへの気持ちが、強いのだと知られたくなかった。だから必要以上のことは、言いたくなかったのだ。そのかわりに逆に僕は質問してみた。
「武はどうするの? 今日は結構良い感じするけどな」
すると意外な返事が返ってきた。
「あのカワイイ子は悪くないが性格が合わないなきっと。別にするわ」
それを聞いて僕は、随分と安心した。彼と女性では、重なりたくなかった。まあいつも話しているように、お互いのタイプが違うから当然なのかなと自分で納得していた。
「じゃ、とりあえずさ、彼女らともっと仲良くなって楽しもうぜ!」
と武が言うと僕は
「TEL番聞くの忘れるなよ」
と少し余裕に言った。
それからも僕は、彼女、えりとばかり話していた。目の前に美人がにいると勝手に口が開いて、必要以上に喋ってしまう。彼女もほっそりとした手で髪をかきあげ、笑みを浮かべながら、テンポ良く僕に話しかけた。何気なく携帯番号を聞くと、すんなりと教えてくれた。今日は最高の一日であった。
お盆が過ぎ、夏の暑さも和らいでもいいころだが、あいかわらず空気が冷める気配はない。夜になるとスズムシが威勢良く自分達の在りかを、他のものたちに告げていた。僕はあれから一日間を置いてからえりに緊張した様子で電話してみた。
「えーと俺、誠だけど覚えてる?」
「うん、このあいだは楽しかったね」
お互いにはじめの方はギコチナカッタが、すぐにそれもなくなっていった。彼女と話すと気分が、この上なくハイになることに気が付いた。自分があたかも他の男と違い、偉く感じるようなことさえあった。
それからも幾度となく電話で話す機会が多くなった。彼女の話す事は面白くいつも興味津々に聞いていた。そして相談にもよく乗っていていた。友達関係や将来、家族のことなどいろいろと聞いていた。それほどたいしたことでもない様に思われることも、ただ力になればと真剣に聞いていた。
いやむしろそこで、自分の孤独が少し癒されていたのかもしれない。同じ時間や考えを共有することによって。
その僕だけのえりにしたかったので、彼女とデートにすることにした。お台場にあるヴィーナスフォートだ。
えりは黒のパンツに上品な白のカットソーを着ている。やはり、彼女は自分ではお嬢だとは言ってないが、服装にそれが表れていた。僕はそんな姿を見ていると少し緊張し、辺りのカップルより自分達が優れているような錯覚さえ覚えた。
ヴィーナスフォート内にある、服屋を次々に見る。ドルチェ、APC 、ポールスミス、アダムエロペ、キャンプスなど、どれも一流ブランドばかりある。僕はフアッションには以前から興味があったので、地元にある店などでは絶対に買わない。それは高校一年の頃、僕は初めて心から好きになった人がいた。その人ともし付き合うとなれば、それなりの格好よさ。彼女と一緒にあるいても恥じない服を着ようと思っていた。当時の僕の服は適当に母が買ってきたのを着ていてたので、それを一新しようとしたのだ。
それからは常に流行の最先端にある、渋谷や原宿の店で一流の洋服を買っていた。だからこうして、ここに一流のブランド、それに担う程の値段を見ても、驚きはしなかった。それはえりも同じで特にごく普通のシャツが二、三万しているのをみても、怯まなかった。
次に僕らはオリエンタル風の少し熱気がある喫茶店に入り喋ることにした。
「さっきは、結構良い服がそろっていた、迷うな」
「そうね、私が買うお店の洋服があるわ」
「特に俺が好きなのは、ここにはなかったけどキャサリンハムネットかな」
「それはどういうものなの?」
「えっとね、ロンドンにデザイナーがいて、とてもシックな感じがするんだよな」
「ロンドンかいいね」
「でもさすがにビックリしたんだけど前、冬にユナイテットアローズの本店に行ったら、カシミアのセーターが二十万で売っていたよ。とても肌触りが良かった」
「え、二十万? すごいね。そういうのプレゼントされたら嬉しいな」
ふと僕の心の中にある思いが湧いて来た。確かに高価で洗練された服はとても着ていると感じがいい。自分が他の人より良く見られているように思える。それはえりと一緒に歩いていることも一緒だ。彼女はとても高貴でお嬢様だ。僕は本当にこいういうような、ものにめぐりあって気分はいいが何かしっくりこない。ただ高貴、高価というものだけが僕を満足させているように思えた。何か空しさが込み上げてきた。
しかし、やはりえり、彼女を見るとそんなことは余りの綺麗さでこの考えは忘れさせてゆく。
そうこうしていると外は幾分か暗くなり始め、僕らはお台場海浜公園に行くことにした。そこはお台場の中でも砂浜になっており、夕方から夜になるとカップルが多く出てくるスポットだ。
僕は砂浜にじかに座るとえりは、ハンカチを引き座った。ここからはレインボーブリッジと東京タワーが見える。しかし、その奥、埼玉方面には夕立かわからないが、稲光がする奇観、それが僕を喜懼させた。
「今日は楽しかったね」
「そうね、誠君といると落ち着くよ」
「そうか~そう言ってくれると嬉しいよ。やっぱり電話だけじゃわからなかったからね」
「うん、こうしていると私達恋人に見られるのかな?」
「そうだといいけど、俺とじゃあつりあわないんじゃないかな」
「そんなことないわよ、誠君は私のこと好き? 付き合ってみる?」
僕は心底驚いた。こんな美人で高貴な人が僕と付き合おうと言ってきたのだ。僕はそれが信じられないからまた聞き返した。
「本当に俺と付き合ってくれるの?」
「嫌ならいいわよ? 」
「嫌なはずはないよ! ありがとう」
僕の心臓はドキドキして、飛び出すまいとしているくらいだ。こんなお嬢様と付き会えるのは夢みたいだった。そして最高の一日は終った。
それからの数日は天国にでもいってるように狂喜した。彼女への気持ちが強く電話では好きだ、好きだと連発してしまった。そうするとえりは、自分に魅力があるのだと思っているような態度で僕に接してきた。
セミの声が些か小さく聞こえる気がする。そして夏の激しい暑さも、徐々に和らいで来た。時は早く過ぎていく無常にも。夏はあと少しで、思い出へとかわろうとしている。僕にはそんなことが、今が楽しいので気づかなかった。でも昨日の電話でいつもの様に話していると、少し気になるフレーズがあった。彼女は武のことを尋ねてきたのだ。
「彼はどんな人なの?」
僕は、なんて言おうか迷った。だがいつも見ている彼の姿を、正直に言うことにする。
「そうだな、気立ての良い、なかなかいい奴だよ」
本当は、もし武とえりがどうにかなるのではと心配した。彼を尊敬し、信用している分、恐かった。だが彼は彼女に好意はないと言っていたんだし、お勧めもしてくれた。余計な心配は要らないと納得した。
今日も夜になると毎晩の日課のように電話をした。少し早めに掛けてしまった気がする。少しの呼び出しの後にえりは出た。別に普段と何ら変わりない様に思えた。なんだか安心するが、不安を完全に消したいがためにいつも以上に話し、長く時を過ごしていた。
もはや以前のように一緒に時間を過ごすだけでは物足りなかった。もっと自分のことを見て欲しいし逆に、彼女を見たかった。今は彼女以外のことが頭に入り込む余地など、全くと言っていいほどない。そして何とかして自分のものだけにしたいという欲望があった。寂しさから開放するためにはどうしても彼女が必要だった。
もう夜が更け、あたりは完全に暗黒につつまれていた。月の明かりが静かに光を放っている。その形象を独り、じっと見つめていた。
それから数日が過ぎた。彼女への気持ちが強すぎているのだと、わかってるから、自分からは電話をしなかった。えりからの連絡が欲しかった。押し寄せてくる孤独と戦いながらベットの中で硬直したように待っていた。
すると、
「ピピィ、ピピィ、ピピィ、、」
やっとかかってきたと思ったが、予想とは反していた。友人の武からだった。僕としてはガッカリしたがこんな時に掛けてくれて、いい友人だと少し嬉しかった。彼に話を聞いてもらいたかったから。僕は彼が話しかける前に声を発した
「あのさ聞いてくれよー」
「明日マコチャン空いてる? 久々に会おう。時間空けてくれよ、明日聞くから」
「そうか別にいいけど、明日誰が来る?」
せっかく話せると思ったので、少し無愛想に返した。
「明日は二人にしよう」
「OK、じゃ明日は飲むか。ちゃんと話し聞いてくれよ!」
と今度は明るく喋った。
武はなんとなく重たい口調で話をしていた。
だが僕は、少しだけ気分が軽くなったのは気のせいだろうか? こういう時に久々に友達と話すと楽になる。明日は思いっきり飲んでやろうと決めた。
武と待ち合わせたのは暗くなってからで、だいぶ体に涼しを感じた。
「とりあえずサテンに入って話そう」
と言ったのは武だった。
「え、 酒飲まないのか?」
「とりあえず酒抜きで…」
「なんだよ楽しみにしていたのに」
と僕は苛立ちながら言った。それから喫茶店に入って席につくと、武は、僕にっとって忘れられないことを言った。
「本当にごめん…」
初めは、何を言っているのか分からなかった。
脳裏にありとあらゆることが駆け巡った。しかしわずか短時間のうちに、一つの最も恐れていたことが、浮かび上がって来た。この時ほど神・仏を憎んだことは、今までにない。
えりが… 信じられない。どうして自分を騙して武と付き合っているのだ。
心の中で一人つぶやく。
それから彼は今まで起きたえりとの事実を、たんたんと話し始めた。すべて事実を聞き終わった後、彼はまた
「本当に、ごめん」
と何度も言った。僕にはそれがなんて言っているのかわからなかった。聴覚が機能しなくなっていたのだろうか、良く解らない。頭の中は真っ白で、混沌とし何も存在しなかった。怒りなどの感情も出てきたが、すぐにどこかへ消えていってしまった。話が終わると、少し経って僕は何も言わずに席を立ち、店を出ていった。武はひどく困惑した様子だったが、止めることもなく座っていた。
僕は、一人歩き続けていた。どこにいくとも知らず。冷え切った重たい体を引きずりながら。気が付いたのはそれからどの位時間が過ぎてからだろう、人気のない公園のベンチの上に座っていた。携帯を取り出して時刻を見ると、午前零時を過ぎていた。そして武からの着信が何回も入っている。掛けることは、しなかった。
終電に間に合うだろうか? また独り歩き続ける。今度は必死に目から落ちてくるものを、上向きになりがら堪えて。綺麗に輝いている星も僕には、ぼやけて見えた。
次の日空は晴れわたって、雲一つなかった。しかし、僕の心の中は暗やみに満ちていた。あれ以来人を信じることに脅えていた。最も仲のいい友人と好きな女にあんなことをされると人を信じろと言う方が無理だ。何度も何度も武が謝る光景が脳裏に浮かび上がってくる。そして考え込む。あまりにひどいことではないのか? それともやむえないんことなのか?
そんなことを、あれから何日もとりつかれたように考えていた。
ある日ふと目が覚めたように、えりは何を考えていたのだろうと思った。そして気が付いた。武のことも。ここにきて、初めて自分以外の人のことを考えられるようになった。今まで、自分だけのことしか考えなかったのだ。すべて武と彼女が悪いのだろうか? そうでは、ない気がしてきたのだ。
それから武に洗いざらい述懐し話そうと決心したのだ。
「おれ誠だけど、今話したいことあるんだけど」
「心配したよ、あれから電話にも一度も出ないし、でもごめん…」
「あれから考えたんだ。武のこと正直言うけどさ恨んだよ、そしてマジで殺してやりたいとさえも思った」
武は、動揺することもなく黙って聞いていた。
「でもさあることを気づいたんだよ。えりは、俺のこと本当に慕っていてくれた。でもな俺は自分の寂しさだけを埋めるために、彼女を求めていたんだ。自分のことだけしか考えて、いなかった。彼女のことを考えずに、今ようやくそれに気づいたよ。だから重たくなったんだろうな彼女は」
武はそんなことない、などと言わず、ただ黙っていた。
「だから彼女を、そんな気持ちにさせたのは俺だったんだ。えりは悪くないなきっと。彼女を幸せにしてやってくれないか? 俺が出来なかったことをしてくれよ!」
強い口調ではっきりと言った。するとようやく武は口を開いた。
「いいのかよ、俺は誠を裏切ったんだぞ、親友だと知っていながら。なのに何でそんなこと言えるんだよ」
「 わかっているよ、でも武は本当にいい奴だと前から思っていたんだぜ、信用もしていたんだよ。そんなおまえだから安心して頼める、そして本当に幸せに出来ると思うんだ」
武は少し驚き躊躇いながら言った。
「マコチャンは、馬鹿だな…。」
「…彼女のことは頼む」
精一杯に言った。僕は武が彼女を幸せにし、そして本当にこれからも最高の友達なのだと確信していた。
夏に青々しかった葉もすっかり変わり、秋になった。これから大学生活がまたスタートする。あれから僕は、色々と反省しまた学んだ。いかに自分がエゴの固まりのようなものだったか。情けないことだ。でもそれを気付かせてくれたのは武とえりなんだなと思った。
そして基本的なことも。何も不自由無く大学に通えることができるのは両親のおかげなんだと。何でこんなことを思うのか自分でもわからない、しかしあることによって、気持ちが初心に戻ったのだろう。
大学が始まると意外と、忙しくなるのだ。また、四人でつるむことになった。武ともわだかまりも、毎日行動を共にすることで、少しづつ消えていっ。
(作者より)
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